白球と最後の夏~クローバーの約束~
「消毒、してくんないの?」
そんなわたしに追い討ちをかける稜ちゃんのこの一言・・・・。
稜ちゃんはどこまでわたしをドキドキさせれば気が済むの?
無邪気な言葉が、わたしをもっとドキドキさせた。
「・・・・しみたらごめんね?」
「うん、いいよ」
一瞬、逃げてしまおうと思った。
でも、稜ちゃんの無邪気さがわたしの足を止めた。
結局、少しでも稜ちゃんの近くにいたいと思う気持ちが勝って、隣に座って薬箱を開けた。
緊張とドキドキで手が震えて、ガーゼに染み込ませるはずの消毒液が磨いたばかりの床にポタポタ落ちた。
稜ちゃんはそんな様子を黙って見ていて、見られるわたしはさらに焦った。
それでもなんとかガーゼを湿らせることに成功して、今、稜ちゃんの傷口にそれを当てようとしている。
「どう? しみる?」
勇気を振りしぼって、チョンチョンと控え目に当ててみた。
もちろん、普通支えとして添えられるはずの反対の手は添えられない。
不安定な、片手だけでの消毒になってしまった。