白球と最後の夏~クローバーの約束~
本当は稜ちゃんの手に触れたい。
この状況に任せて触れてみたいけど、そこまでの勇気は出なかったんだ。どうしても。
「大丈夫。なんともない」
「そう。じゃあ、もうちょっと力入れるね」
「うん」
今より強めに当ててみる。
「・・・・どう?」
「全然平気」
そこから少しの沈黙。
今日もきれいに晴れた空の下で部活に精を出す生徒たちの、楽しそうな声が小さく聞こえる。
そんな空間・・・・。
「そんなことよりさ」
稜ちゃんが口を開いた。
「なに?」
消毒の手が思わず止まる。
「あのカップ、すごく喜んでた、母さん」
「ほんと? よかったぁ」
顔の筋肉が緩んで、とたんに笑顔になっていく。
緊張なんて忘れて、稜ちゃんを見て満面の笑みになっていた。
母の日のプレゼントに一緒に選んだティーカップ、稜ちゃんのお母さん、喜んでくれたんだ。・・・・嬉しいなぁ。
「・・・・ありがとな」
稜ちゃんが、ちょっと口ごもりながらそう言う。