白球と最後の夏~クローバーの約束~
しばらく待っていると、誰もいなくなった教室で泣いているわたしの耳に、バタバタと走ってくる足音が聞こえた。
「ごめん百合!いろいろ指示出してたら遅くなっちゃって・・・・」
息を切らしたココちゃんが、血相を変えて教室に飛び込んできたんだ。
自分の椅子になだれ込むように座って、わたしの机に身を乗り出すココちゃん。
「どうした? ゆっくりでいいから話してみて?」
弾んだ息を整えて、黒くて大きな瞳を“ふっ”と柔らかくして、そう促す。
「あのっ・・・・あのね・・・・ココちゃん───」
「うん」
そこからは、堰を切ったように言葉が口を飛び出していった。
昨日、岡田君にイライラして、つい思ってもないことを言ってしまったこと。
そのイライラの原因は、稜ちゃんやココちゃんに2人でいるところを見られたくなかったからだということ。
それから、寝てしまったわたしを岡田君が起こしに来てくれたときに感じた、ほっぺのくすぐったさのこと。
それは、もしかしたら岡田君の手だったかもしれないということ。