白球と最後の夏~クローバーの約束~
 
電車に乗って帰るときも自転車で送ってもらうときも、稜ちゃんはずっとわたしを気遣ってくれた。


「具合、悪くなったのか?」

「人酔いしたか? まぁ、そうだよな、ごちゃごちゃしてすごかったもんな、あれ」

「親父、このネクタイ見たらきっと喜ぶよ。サンキューな」


いろんなことを言って、わたしを元気づけようとしてくれた。


「そういえばさ、昨日のドラマ観たか? 野球のやつ」

「あれ観て俺、男のくせに泣いちゃってさ」


なんていう、他愛のない話もたくさんしてくれた。

でもわたしは、稜ちゃんが気を遣ってくれるたびに心がズキズキ痛んでどうしようもなかった・・・・。



“やきもち”と“嫉妬”って、紙一重でどちらにでも変わるものなのかもしれない。

わたしにだってニュアンスの違いはよく分からないけど、なんだかそんな気がしてならないな。


あんなに楽しみにしていた、稜ちゃんとのお出かけ。

それは、わたしの勝手な“嫉妬”のせいで苦い思い出になってしまった───・・。










 

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