白球と最後の夏~クローバーの約束~
 
そんなことを自分に言い聞かせながら、次々とバットをテカテカに磨き上げていった。


“泣いたら今度こそ遠慮しない”

あの日、岡田君に告白されたときの言葉が何度も何度も頭をよぎっていった。


“俺が花森をもらう”

あの日、岡田君が稜ちゃんに言っていた言葉が何度も何度も頭に浮かんだ。

だからわたしは、泣きそうになってもずっとずっと我慢していた。





そのうち磨くバットもなくなり、夕方になって・・・・。

わたしに気を遣ってそれ以上何も言わなかった岡田君は、いつの間にか横からいなくなっていた。

そんなときにふと顔を上げると、オレンジ色の光の中を早馬のように駆け抜ける稜ちゃんが目に入った。

まるで背中に羽が生えたように、軽々と土を蹴って走っている姿。

そんな姿が唐突に目に入った。


この姿を見られるのも、あと1ヶ月あるかどうか・・・・。

そう思うと、心に焼き付けなきゃという衝動にかられて、心のシャッターを何枚も何枚も切った。

一生忘れないように、ずっと先の未来でも覚えているように・・・・。
 

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