白球と最後の夏~クローバーの約束~
「へっ?」
いつもと全く違う稜ちゃんに驚いて、思わずそう聞き返してしまったわたし。
・・・・きっと、すごくマヌケな声だったんだろうな。
「百合ちゃんの誕生日なのに、かっこいいとこ見せらんなくて。ごめんね」
「そんなのいいのに・・・・」
「でも、引き分けじゃなくて勝ちたかったんだもん」
「・・・・稜ちゃん───」
それからわたしは、何も言葉が出てこなかったよ。
唇を噛みしめる稜ちゃんの横顔に胸がギュッと締めつけられた。
「───いっぱい練習してさ、次の試合で勝てばいいよ。ね? 稜ちゃん」
わたしがそう言ったのは、それから少し経った頃。
それでも稜ちゃんはブンブンと首を横に振る。
「甲子園・・・・行きたいんだもん。そこは負けたら次がない場所なんだよ? 1試合1試合が僕にとっては真剣勝負なんだもん」
キリッとわたしのほうに顔を向けた稜ちゃんは、ちょっと目が赤かったね。
その少し赤い目と芯の強さに、初めてわたしの心に何かが芽生えたんだ───・・。