白球と最後の夏~クローバーの約束~
 
「ずっとポケットに入れて戦ってたから汚くなっちまったけどさ」


そう言いながら、わたしが刺繍した“青雲”の文字を指でなぞる稜ちゃん。


「必ず甲子園に連れていく。だからマネージャーはずっと応援しててくれよ。ホームラン、また打つから」


えっ・・・・。

“必ず甲子園に連れていく”

稜ちゃんはわたしの目を真っ直ぐに見て言ってくれた。

・・・・連れてってくれるの?

わたしが何も言えないでいると、稜ちゃんは続けて言う。


「俺はお前の前じゃ負けない」


そう言って、わたしの頭に大きくて熱い手を置いた。

わたしの体は、頭のてっぺんから足の先まで一気に固まる。

稜ちゃんの体温が愛しくて、頭に触れられた手の重みや感触が心地よくて。


“甲子園に連れていく”

“お前の前じゃ負けない”


そして何より、その言葉がたまらなく嬉しくて・・・・。

こらえきれずに涙が出て、それを見られないように、わたしはうつむいた。





覚えてくれていたんだね、7年前のあの“約束”・・・・。
 

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