白球と最後の夏~クローバーの約束~
「はい!稜ちゃんにあげるよ!」
わたしが摘んだばがりのクローバーを差し出すと。
「僕のは百合ちゃんにあげる!」
夕日のせいか、赤い顔をした稜ちゃんが同じようにクローバーを差し出した。
なんだかおかしくなったわたしたちは、交換しながらププッって笑っちゃったよね。
そのときの稜ちゃんの泥だらけのユニホームがやけに眩しく見えたのは、やっぱりわたしの気のせいなのかな。
11歳の誕生日、わたしは初めて稜ちゃんを“男の子”として意識するようになった。
真っ黒に日焼けした肌と、泥だらけのユニホーム。
笑ったときに見せる白い歯と、特徴あるかわいい八重歯。
目の前にいるそんな稜ちゃんが、わたしの初恋の始まりだった。
ねぇ、稜ちゃん。
わたしがあげたクローバー、今でも持っていてくれてる?
わたしは、稜ちゃんからもらったクローバー、今も生徒手帳に挟んで持ち歩いているよ。
稜ちゃんが甲子園に行くまで勝ち続けられますように、甲子園でも負けませんようにって、毎日お願いしているんだ。