白球と最後の夏~クローバーの約束~
うまく声が出ない口をなんとか動かし、恐る恐る目を開ける。
すると、稜ちゃんがキャッチャーマスクの中で笑っているのがはっきり見えた。
大きく振りかぶった大森君も、守備についたみんなも、先生もベンチのみんなも・・・・。
緊張でガチガチになっていたのはわたしだけで、ほかのみんなは笑顔だった。
「楽しまないと損だぞ、花森。こんな試合、滅多に体験できるものじゃない」
「はい」
また声をかけてくれた先生。
先生の言う通り。
決勝の舞台なんて、選ばれた人たちしか立てないものだもの。
今のこの瞬間しか立つことを許されない最高の舞台なんだもの。
みんなの笑顔は試合を楽しんでいる笑顔だったんだ・・・・。
そうだよ、楽しまないと!
この舞台にいられる幸せを1秒でも長く噛みしめていないと!
わたし、カッ!と大きく目を見開いて大森君の初球を見るよ。
わたしが見なきゃいけないんだ。
わたしが・・・・。
そう心を決めた瞬間、大森君の第1球目が投げられた。
真っすぐのストレート!