白球と最後の夏~クローバーの約束~
大森君はバットで地面を叩いて、悔しさを全身で表していた。
そして、打順は6番の村瀬君へ。
「最初は自分が出たいから野球をやってた。でも今は違う。あっ、くそっ!またフォークか・・・・」
村瀬君が渾身の力を込めて振ったバットは空を切った。
それでも村瀬君はひるまずピッチャーに立ち向かう。
稜ちゃんは試合から片時も目を離さずにわたしに語りかけてくる。
「でも今は、甲子園に連れていきたい人がいる。このチームで甲子園の土を踏みたいと思ってる」
この切羽詰まった状況にいるとは思えないほど、穏やかな口調で話を続ける稜ちゃん。
わたしは、稜ちゃんと試合の2つでバクバクと鳴る心臓を落ち着かせるので精一杯。
頷くことも返事をすることも、相づちを打つこともできなかった。
「自分たちのためだけに戦っているわけじゃないんだ、俺たちは。一緒に汗を流した仲間のため、先輩たちのため、先生のため、学校のみんなのため・・・・」
「う、うん」
やっと少しだけ心臓が落ち着いてきて、なんとか相づちを打つことはできた。