白球と最後の夏~クローバーの約束~
 
「職員室に顔を出してくるから」


そう言ったきり、笹本先生はかれこれ1時間近く戻ってこない。

いつの間にか、部室には稜ちゃんとわたししかいなくなっていた。


試合が終わって数時間が経つと、少しずつ頭が冷静さを取り戻してくる。

すると、稜ちゃんが最後の打席に向かうときにわたしが言った言葉が突然頭に浮かんだ。


━“甲子園、必ず連れてってね。・・・・稜ちゃん”━


どうしてわたし、試合の真っ最中に“稜ちゃん”なんて言えたんだろう・・・・?

思い出すとものすごく恥ずかしくて、大それたことを口走っちゃったと思って、片付けをする手が自然と早くなる。


早く家に帰って気持ちを落ち着かせなきゃ・・・・。

そんな焦りも出る始末。


“稜ちゃんに告白しよう”

その気持ちは、とっくにどこかへ飛んでしまった。


甲子園から帰ったあと・・・・そう、夏が終わったらにしよう。

そんな“現金なやつ”の自分が、またひょっこりと顔を出したり。

とにかくわたしは、稜ちゃんに背中を向けて黙々と片付けを急いだんだ。
 

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