白球と最後の夏~クローバーの約束~
 
稜ちゃんは前を見たままそう言って、わたしの返事を聞くとゆっくりとペダルを漕ぎだした。

稜ちゃん、少し心配しすぎな気もするけど・・・・。

でも、昔からわたしの運動オンチぶりは熟知しているから、気を遣って言ってくれたのかな。

なんて。


こういうときだけ“幼なじみの特権”みたいなものに、自然と顔の筋肉が緩んでくる。

顔を見られないのをいいことに、サワサワと夜の風を切る中で、わたしはニコニコ笑いながら稜ちゃんの匂いを一生懸命鼻に記憶させていく。


シャコ シャコ・・・・
シャコ シャコ・・・・


自転車のペダルが規則正しく回る音、車輪が回る音。

まだ夢でも見ているのかな。

こんなに至近距離になることなんてもうないと思っていたから、これも自分の妄想なんじゃないかって思う。


それなら夢か現実か確かめよう、そう考えたわたしは、少しだけ稜ちゃんに顔を向けてみた。

視線の先に映るのは、稜ちゃん。

稜ちゃんは、そんなわたしのおかしな考えにも気づかないで、前だけを見ている。


・・・・本物だぁ。
 

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