白球と最後の夏~クローバーの約束~
 
それからは、稜ちゃんのことがまともに見られなかった。

ムスッとした稜ちゃんの“別に”が心に刺さって、絶対嫌われたんだっていう気持ちがムクムクと膨れ上がっていった。

稜ちゃんは黙って自転車を漕ぎ続けていたから、それがさらに失恋を裏づけているように思えた。


勝手に恋して勝手に失恋して。

片想いってこれだから嫌だよ。





キキッ!


「着いたぞ」


わたしの家の前で自転車を止めた稜ちゃん。

その頃には、じんわり浮かんだ涙も冷たく乾いていた。


「ありがと・・・・」

「んじゃ、また明日。今日はあったかくして寝ろよ?」


自転車を降りるわたしをチラッと見ながら、稜ちゃんはそう言う。


「うん」

「それと、明日はクローバー探しに行くのやめとけよ? 朝からすっげー雨らしいから」

「分かった」

「じゃあな!」


そう言いながら、稜ちゃんはくるっと自転車の向きを変える。

そして、少しも目を合わせずに、道路一本隔てた向かいの家に帰っていった。


「じゃあね、稜ちゃん・・・・」
 

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