白球と最後の夏~クローバーの約束~
うーん。確か昨日は・・・・。
稜ちゃんはこう言ってたような気がするけど、違ったっけ?
『すっげー雨らしいから』
って、そう言ってたよね?
いつもさほど働いているとは思えないけど、自業自得でひいた風邪のせいでさらにぼーっとする頭で一生懸命考える。
そっか・・・・!
わたしを早起きさせないようにって嘘ついたんだ!
朝練のためにわたしよりずっと早く登校していく稜ちゃんを思い浮かべる。
颯爽と自転車を漕いで、肩からは大きなスポーツバッグをさげて、甲子園に向かって一直線の眩しい姿・・・・。
わたしが今歩いているこの道を、稜ちゃんも同じようにして通ったんだぁ。
稜ちゃん自身は、台風だろうが大雪だろうがどんなときでも早起きするのに、わたしには嘘をついてくれた。
しかも“すっげー雨”って。
そんな優しさが嬉しくて、わたしはちょっと涙ぐみながら学校までの道を歩いた。
あったかい春のそよ風の中から、稜ちゃんのあのコロンの匂いが香ってくるようだった。