白球と最後の夏~クローバーの約束~
乱れた髪を手ぐしでとかしながら玄関先まで行くと、そこには私服姿の稜ちゃんが立っていた。
滅多に見ない私服姿に一瞬ドキッとして、それでもなんとか誤魔化しながらおずおずと前に出る。
風邪だけじゃなくて、ほんとにクラクラしちゃう・・・・。
「はい、これ」
「悪いな、具合悪いのに」
申し訳なさそうな顔でデータブックを受け取る稜ちゃん。
「ううん」
こんな服も持ってたんだなぁ。
目に入った稜ちゃんの私服は、学ランやユニホームとはまた違う色気があった。
ちょっとダボッとした黄色いパーカーがすごく似合っていて、でも子どもっぽい感じでもなく。
ヒップホップとまではいかない、ストリート・・・・って言うの?
男の子のファッションに疎いわたしにはよく分からないけど、とにかくかっこよかった。
「ところで、風邪の原因って俺なのか?」
「へっ?」
稜ちゃんに見とれていたわたしはその声でハッと我に返った。
目を向けた先には、稜ちゃんの黒い大きな目。・・・・真っすぐにわたしの目を見ていた。