初恋ラプソディ
午後になり、受付を済ませて、会場入りする。

「美音、お母さんたち、この辺に座るけど、
あなたたちどうする?」

お母さんに聞かれて、私は奏先輩と顔を見合わせた。

「出番になったらすぐに出られるように、
向こうで2人で座ります。」

奏先輩がお母さんたちに言って、私たちは前の方の席に座る。

開演になり、小さな子から一生懸命演奏していく。

かわいい…

3グループ目が終わると、奏先輩が耳元に顔を寄せて話しかけてきた。

「あの曲、昔、美音も弾いてただろ。」

私は、驚いて奏先輩を見る。

「なんで知ってるの?」

「なんでって、俺も出てたから。
上手い子がいるなぁと思って見てた。」

そうなの?

「毎年、美音たちの後ろが俺たちだったから、
ステージ袖で一緒になってたんだけど、
美音は知らなかっただろ?」

全然、知らない。

なんで、奏先輩は知ってるの?

私が目を丸くしてると、奏先輩はくしゃっと目を細めて笑った。

「くくっ
美音たちは、いつもキャッキャ騒いで賑やか
だったから、周りなんて見てなかった
もんな。」

え!?

「私たち、いくらなんでもステージ袖で
なんて、騒いでないよ。」

「うん。騒いでたっていうか、ひそひそ声で
『緊張するね〜』『大丈夫だよ〜』
みたいな事をにこにこ言い合ってた。」

は、恥ずかしい〜

「でも、私より智恵の方がうるさかったと
思うんだけど。」

「ま、それは五十歩百歩かな。
キャッキャ騒いでたのに、ステージに
上がったら演奏はひとつ下とは思えない
くらい上手で、中でも、美音は一際(ひときわ)
エレクトーンが上手で毎年聞き惚れてた。
地区ファイナルでも一緒だったし、ソロも
一緒だったから、俺はいつも美音を見る
たびに、「あ、あの子だ!」って
思ってた。」

奏先輩は、私なんかよりずっと上手なのに、そんな風に思ってくれてたなんて…
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