初恋ラプソディ
出番!

奏先輩は私の手を引いたまま、暗転したステージに上がる。

手前のエレクトーンの所で手を離し、にっこりと笑った。

何も言われなくても伝わる。

「大丈夫!」

奏先輩の目はそう言っていた。

私は奏先輩に笑顔を返す。

大丈夫。

奏先輩と一緒。

大丈夫。

奏先輩がいてくれる。

私は、司会の先生が曲紹介をしてくれてる間に、USBメモリをセットして準備する。

「では、どうぞ。」

その声を合図に、目を閉じて深呼吸する。

目を開ければ、そこにいるのは奏先輩。

大丈夫。

私は笑顔で頷いて、ベースを踏んだ。

ダダダダダダダン!

ティンパニがフォルテで響き渡る。

奏先輩の音色が加わり、音が厚みを増していく。

楽しい。

気分が高揚していく。

奏先輩と目を合わせて、呼吸を合わせて、物語を紡いでいく。

5分の物語。

それは、あっという間に終わってしまった。

ステージ中央。

私たちは並んで立つ。

「MiSoの皆さんでした!」

司会者の声と共に礼をする。

顔を上げて奏先輩を見ると、奏先輩もこちらを見て微笑んでいた。

私たちは、そのままステージ袖に下がる。

最後の高校生のグループの演奏が始まった。

「はぁ……… 、終わったぁ!」

私は、ステージ袖で膝から崩れ落ちた。

奏先輩は、その横に膝をついて、私の肩を抱き寄せ、

「美音、よく頑張ったな。ありがとう。」

って言ってくれた。

うん、頑張った。

私、頑張ったと思う。

「奏先輩も。ありがとう。」


その時、ステージ上のフォルテだった音楽がピアノになり静かになった。

だから、それまで聞こえなかった先生たちの声が聞こえた。

「いいなぁ。
私もあんな頃に戻りたい。」

「EFって、音楽を通して友情を育むと
思ってたけど、愛や恋も育むんだね〜」

途端に、奏先輩の手が私から離れた。

「美音、行こ!」

奏先輩は、私の手を引いて立たせると、そのまま廊下に出た。
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