不眠姫と腹黒王子~番外編~
「私が恋したの、宮の柔軟剤じゃなかった。」
「は…?」
こいつは、また何変なこと言ってんだ。
てか、今まで俺の柔軟剤に恋してると思ってたのかよ。
さすがに傷つくんだけど…
「恵介くんの匂いは別に普通だったの。
柔軟剤一緒だって言ってたのに。」
「そりゃ一緒だけど…」
「私、宮の…恭介の匂いが好き。
きっと本能的に相性がいいんだよ!」
なんか無性にエロく聞こえるのは
俺が悪いんだろうか…
「やっぱり恭介が一番!!
一番好き!」
そう言って、円はにっこり笑って俺の背中に抱きついた。
恵介がいたときには見せなかった笑顔。
甘えるような、可愛らしい笑顔だ。
ああ、そっか。
俺もコイツも、自分のカッコ悪いところや
素の笑顔は、お互いの前でしか見せないのか。
なんか…すげえ嬉しい。
単純かもしれないけど、円の一番でいれることが何より幸せだ。
「俺も…」
「んじゃっ、髪乾かすね☆」
まぁ甘い雰囲気になかなかならないのは
俺的に苦痛だけど…
「……このあと俺の部屋で勉強するか?」
「えっ!うん!
わーい、恭介の部屋物色したいと思ってたんだよね!
あと匂いも嗅いで…」
「心配しなくても匂いなんか嫌ってくらい嗅がせてやるよ。」
「珍しい…。
恭介がそんなこと言ってくれるなんて。」
「まぁな。」
俺は上機嫌で円がドライヤーで髪を乾かすのを受け入れる。
なんもわかってないコイツが、照れたり恥ずかしそうにする様子を想像する。
俺がそんな煩悩を抱えていることなんて露知らず、
純粋に俺を好きと言って、
ドライヤーで舞う俺の匂いにニヤニヤしてる円。
俺のまだ見せていない部分を見ても、
円は俺を好きだと言い続けてくれるだろうか…
「好きだ」
ドライヤーの音でかき消されて、
それは円には届かない。
十数分後には、俺の本当の素を見ればいい。
照れている円も、気まずそうにする円も…
全部俺のものに…
そんな煩悩を抱える18の梅雨。