不眠姫と腹黒王子~番外編~


「宮、面白いよ。
立山さんと佐々木さんも素の宮と話してみて。」
「素…?」
「そう。宮、ずっと無理して爽やか王子様演じてただけ。」
「演じ…え…?」

高山さんは少し
ほんの少し口角を上げた。

「これからは腹黒王子だから、よろしく。」
「腹黒…王子…」

私と友達はキョトンとして高山さんを見る。

私がぶった頬なんてまったく気にしてないように、「寒いね」とポケットに手を入れた。

いや、まさか。
結構強く叩いちゃったのに…
文句のひとつやふたつ…反撃だってあるかもしれない。


「あと…私からも話したいことがある。」

来た…!
絶対文句だ。
そのとぼけたキャラが崩れたら、宮くんにチクってやる…!

「何よ。」

「あの…この間は怒鳴ってごめんね?」

「へ…?」

この間…?
いつのこと?

「あの~…朝、宮と4人で…
宮のことだいっきらいって叫んで出てった。」

「ああ…」


あれは確か去年の夏休み前…
朝二人きりで勉強してた宮くんと高山さんに話しかけたときだ。

なんか宮くんにくずでだいっきらいって叫んで教室から走り去ってた。

当時は意味不明すぎて呆然としてた。
今もよくわかってないけど。


「別に謝るほどのことじゃ…
てか忘れてたし。」
「ずっと謝りたかった。」

「なら…宮くんと別れてよ…」

私が勇気を振り絞って言うと、
「やだ」
たった二文字で拒否された。

「(イラ…)あっそ。じゃあどーでもいい。」

「そっか。」

「もういいよ、行こ。咲希。」

「うん…」


私たちが校舎裏をあとにしようとすると、
高山さんから呼び止められた。


「あのっ、また…また明日ね。」

「は…?」

高山さんは真顔のままこっちに手を振っている。

「っ、行こ!」
「プッ…」

早く立ち去ろうと、手を引いていた友達が吹き出した。

「高山さんって変なの…」
「…私はだいっきらいだけどね!」
「フフッ…」

夕日が沈みかけていて、影が長い。
追い付けない影に向かって早歩きし続ける。
それでも追い付けない。

私の恋みたいだ。


高山さんはだいっきらい。
宮くんの彼女だなんて認めたくない。

でも…
悔しいけど、"腹黒王子"はちょっといい…


追い付けない。
それはわかってるけど、目の前に伸びる黒い影に向かって歩くことを、私はやめられないんだろうな。

そう考えて、またため息をついた。



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