不眠姫と腹黒王子~番外編~


***

「ごめん…」

宮の家の玄関につくと、
宮が珍しく謝って私の顔を覗き込んだ。


「いや…別に悪気があったわけじゃないしね。ははははは。」

「笑い声が笑ってねぇよ。」


だってさ、憧れの彼氏の家初訪問がこれよ?

もっと、
ケーキ焼いてきたよ♡
とか
看病しに来てやったぞ☆
とか
やりたかったのに…

現実は着衣泳でもしたんですか?ってくらいびしょびしょで、
泳いだのはプールじゃなくて泥水です、はい。


「そんなすねんなって。
まず風呂入れ。
えっと…タオル。おい!恵介(けいすけ)!!」

け、けいすけ!?
だ、だだだ誰ですか!


宮の呼び声に応えて、
奥から幼めの宮がだるそうに出てきた。


「なんだよ。」

「ちょ、タオル持ってきて。」

「はぁ!?うざ。
てか、誰…その人。」

「こ…っ、こんにちは!
高山 円です。」

「…ども。」


『けいすけ』くんはだるそうに私に会釈すると、
バスタオルを持ってきて宮にひょいっと投げた。



「これで軽く拭いて、すぐ風呂入れ。」

「うん。」


宮の弟っぽいその子はすぐに奥へ戻っていった。


宮は自分を拭くより、私のカバンを拭いてくれている。

なんだかんだ優しいな。

すねてる私が子供みたいだ。


「宮…ありがと。」

「いいよ。風呂右奥の扉な。
入ってる間に着替え置いとくから。
洗濯機回せ。」

「ママみたい。」

「うるせぇな、早く行け。」

「ふぁい。」


私はなんだか嬉しくてにやけそうになるのを
適当な返事で誤魔化した。



< 7 / 19 >

この作品をシェア

pagetop