不眠姫と腹黒王子~番外編~
***
「ごめん…」
宮の家の玄関につくと、
宮が珍しく謝って私の顔を覗き込んだ。
「いや…別に悪気があったわけじゃないしね。ははははは。」
「笑い声が笑ってねぇよ。」
だってさ、憧れの彼氏の家初訪問がこれよ?
もっと、
ケーキ焼いてきたよ♡
とか
看病しに来てやったぞ☆
とか
やりたかったのに…
現実は着衣泳でもしたんですか?ってくらいびしょびしょで、
泳いだのはプールじゃなくて泥水です、はい。
「そんなすねんなって。
まず風呂入れ。
えっと…タオル。おい!恵介!!」
け、けいすけ!?
だ、だだだ誰ですか!
宮の呼び声に応えて、
奥から幼めの宮がだるそうに出てきた。
「なんだよ。」
「ちょ、タオル持ってきて。」
「はぁ!?うざ。
てか、誰…その人。」
「こ…っ、こんにちは!
高山 円です。」
「…ども。」
『けいすけ』くんはだるそうに私に会釈すると、
バスタオルを持ってきて宮にひょいっと投げた。
「これで軽く拭いて、すぐ風呂入れ。」
「うん。」
宮の弟っぽいその子はすぐに奥へ戻っていった。
宮は自分を拭くより、私のカバンを拭いてくれている。
なんだかんだ優しいな。
すねてる私が子供みたいだ。
「宮…ありがと。」
「いいよ。風呂右奥の扉な。
入ってる間に着替え置いとくから。
洗濯機回せ。」
「ママみたい。」
「うるせぇな、早く行け。」
「ふぁい。」
私はなんだか嬉しくてにやけそうになるのを
適当な返事で誤魔化した。