谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜
……あぁ、私も「同じ階層」の相手がよかった。
きっと、グランホルム大尉もそうに違いないわ。
なぜなら、貴族である彼とは生まれも育ちも「違いすぎる」から。
念願叶って軍人になり、これで「シェーンベリ商会」からは逃れられたと思いきや、今度は「二男」に生まれついたがために下賤な娘を妻に押しつけられるのだ。
それが証拠に、彼らは結婚するにもかかわらず、数えるほどしか会ったことがない。
結局のところ彼は、自身の父が抱えるシェーンベリ商会への柵から、どう足掻いても抜け出せないでいるのだ。
そんな彼が、リリには気の毒に思えてならなかった。
だから、こんな二人の結婚生活が、愛のない形ばかりのものになるのは、今から目に見えていた。
妻である自分に求められるのは「善き家庭人」として子どもを産み育てることだけで、夫である彼の方は子どもさえもうけられれば、やがて貴族の感覚では「常識」の、家の外で「恋愛を愉しむ」ようになるのであろう。
……やっぱり『ご自分の結婚式』なんて、一生来ない方がいいのだわ。
そう思った彼女は、とうとう今晩「決行」することにした。