谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜
『……みなさま、「あの方」をごらんあそばせ。
このような場にあのように貧相な…… あら、ごめんあそばせ……「堅実」なドレスでお越しになるとは』
『ずいぶんと襟元が詰まっていらしてよ。お袖も張り付いたようにぴったりとしているし……』
『お胸に自信がないからではないのかしら?
けれども、後ろの……なぜか恥ずべきところだけが盛り上がっていてよ?』
『まぁ……なんて品性を問われるデザインなのかしら』
『それに……あのお帽子をごらんあそばせ。
頭の上にちょこんと乗せていらっしゃるけれど、子ども向けでも首を傾げざるを得ない大きさなのでは?……私たちの間で流行っているお帽子をご存知ないのね』
『……あの方、グランホルム大尉の婚約者だそうよ?』
『あら、そうなの?あの方が、大尉のお相手?
……どのような方なの?』
『確か……あの方の父親は、イェーテボリの木材商人だと聞いたわ』
『まぁ、大尉は同じ家格の令嬢と縁組なされなかったの?」
『……なんでも、大尉のご生家の領地にある材木を、その木材商人が商売の糧にしているそうよ』
『では……それを盾にして、自分の娘を由緒ある男爵家と縁組みさせた、っていうこと?』
『本当は長男のアンドレさまを、ということだったのが、すでに男爵・ヘッグルンド家のウルラ=ブリッド嬢とご婚約なさってるでしょう?』
『それで……二男のビョルンさまに?』
『そんな……あんまりだわ……あまりにも、大尉がお気の毒すぎるわ……』
『おぉ、嘆かわしいわ……そのような女が、グランホルム大尉の婚約者だなんて……』
『ほんと、大尉がお気の毒でならなくてよ……』
『だけど、「商人」であったら、さぞかしあり余るほどの資産があるでしょうに……』
『宝石も、ずいぶんかわいらしい大きさのものばかりね…… ドレスもお帽子も装飾品も、みな「堅実」なものばかりだわ』
『さすが「商人」の「お見立て」ね。
きっと、私たちが見倣うべき「倹約家」に違いなくてよ……』