谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜
……あぁ、ようやく理解ってもらえたのね。
リリはホッとしたと同時に、喉の渇きを強く感じた。たぶん、大尉もそうであろう。
だから、ひとまず珈琲の差し替えを命じることにした。
すぐに供された珈琲を互いに黙って飲みながら、彼女はあることに気づいた。
……そういえば、私、これほど大尉とお話をしたのって、初めてだわ。
婚約して以来、リリは大尉とは数えるほどしか会っていなかったが、彼はいつも不機嫌そうに怒ったような顔をしていて、余程の用がない限り、話しかけられることがなかった。
そして、生家の男爵家のために意に沿わぬ婚約相手を押しつけられ、きっとやりきれない思いを抱えているに違いないと慮り、彼女の方からも話しかけることもなかった。
……皮肉なものね。
こうして初めてきちんとお話しするのが「最後」のときだなんて。