谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜
「私こそ……男爵家に生まれたとは名ばかりの、爵位も継げぬ『しがない』海軍軍人なのだがな」
大尉が腕を組んで、ぼそり、とつぶやいた。
「だから、妻には貴族の娘など、端から望んでいなかったのだが……いや、むしろ、貴族の娘ではない方がいいと考えていた」
……えっ?
リリは、対面に座する彼をまじまじと見た。
今まで、はしたなく思われるのを危惧したのと、そもそもなんだか怖くて近寄り難かったのとで、こんなふうに彼を見つめることはなかった。
白金色の髪は、今はきっちりと整えられているが、少し癖があって実はまとまりにくいかもしれない。
不機嫌な表情しか目にしてこなかったため気づがなかったが、意外にも少年っぽさが残る丸顔気味の輪郭だった。
やや目尻の上がった、アーモンドのように大きな瞳は、琥珀色だとばかり思っていたけれども、どうやらずっと色素は薄く、まるでミルクをたっぶりと入れた珈琲の色をしていた。
そして、すーっと通った高い鼻梁から感じられる冷淡さとは裏腹に、ちょっと厚めの唇は、もし触れられるものなら、温かくてやわらかいのかもしれない。