谷間の姫百合 〜Liljekonvalj〜
🥀Kapitel 2
男爵・グランホルム家もまた、ほかの貴族と同様に斜陽の憂き目にあった。
それを救ったのはリリの父親、オーケ・シェーンベリだ。
彼は英米に輸出する木材に、男爵家が所有する領地に生育する 唐檜を求めた。スプルースはマツ科の針葉樹で水に耐性があるので、建物だけでなく造船の用材としても向いている。
シェーンベリ商会の業績がうなぎ登りに上昇するにつれ、男爵領も「恩恵」を受けることになる。
北極圏に面したスウェーデン北部の針葉樹林帯に林業での新たな雇用が生まれ、おかげで当代男爵であるグスタフ・シーグフリード・グランホルム閣下は、領地経営が安定するのはもちろん、二人の子息の教育にも惜しみなく注ぎ込むことができた。
それまで家庭内や教区の教会などで読み書きを教えていたスウェーデンでは、一八四二年に民衆教育令が発布され、国が各地域に「学校」を設けることになった。それに伴い、男子の初等教育に関しては徐々に充実してくるようになるのだが、さらに「その先」の教育となると依然として「身分の壁」によって阻まれていた。
新興の商工業者の家に長男として生まれたラーシュ・シェーンベリであれば、初等教育を修了えた後は、農家の青年を主体としたFolkhogskolaに行くのが当時としては一般的な進路だった。
そんな折、父親の取引先の英国商人より、かの国には貴族でない子弟にも門戸を開いた「パブリックスクール」なる学校があることを知る。そして、父子でいろいろと検討した結果、一五〇九年に開校されて伝統のある男子のみの全寮制「セント・ポールズ校」で学ぶことになった。