時枝君の恋愛指南
自分が”如月”であるという事実よりも、彼女が口にした有り得ない誤解に、驚きが隠せない。
『実はね、私、見ちゃったんだ…』
バツが悪そうに語りだしたのは、職場で偶然見てしまった自分のデスクの引き出しの中。
いつだったか、モデル事務所のマネージャーが、初めて表紙を飾った雑誌ができたと、興奮してわざわざ職場の近くまで持ってきたもの。
しかも、たまたまその月のコンセプトに合わせて、半裸で男性モデルと密着した表紙で、そういった点でも、彼女がそう思っても仕方ないのかもしれない。
『あれを…見られたのか…』
もはや時枝としての演技も忘れ、力無く頭を抱え込む。
モデルが自分だと気付かれた以上、自分が”如月拓真”であることだってわかってるはず。
いや…それよりも、この副業を職場にバラされれば、どの道すべてがバレてしまう。
一体彼女が何を企み、何を望んでいるのか、慎重に見極める必要がありそうだ。
俺は、自らの失態に鬱積しながらも、彼女の真意を探ろうと試みた。
…ところが。