時枝君の恋愛指南

『えっと…リュウ…?』
『琉星ね』
『その琉星っていう人?と、森野さんが』
『うん、もうつきあって一年経つかな』
『一年…ですか』

さっきまで緊張していた様子だった彼女の目が、彼の…”琉星”の名が出た辺りから、やけに生き生きとしてきた。

仕事中はそうおしゃべりな印象ではないのに、やけに饒舌になる。

『彼ね、すごく優しくて格好良くて…あ!でも誤解しないで欲しいんだけど、別に顔だけで選んだわけじゃないからね、もちろん仕事だって優秀だし、看護師としても、医師として尊敬してるし』
『…看護師?』
『あ…向こうでは私、看護師なの』

照れくさそうに『まだ新米だけどね』と、頬を赤くする。

それはおそらく、すべてゲーム上の設定なのだろうが、彼女の話を聞く限り、もうさして現実と変わりない程にリアル(現実)で、これじゃまるで、ごく普通の”惚気話”を聞かされているようだ。

『なるほど…つまり、森野さんには、バーチャルな世界に”琉星”という彼氏がいて、その男の為にも、今週末の紹介の話は受けられないと…』
『うん…まぁだいたい、そんなとこかな』

彼女が、”彼”がいるという割に、こうやって男女で食事することにも慣れて無い理由が分かり、妙に納得。

今時珍しい程の貞操観念も、仮想恋愛内の、そのバーチャルな彼を慕う真剣な気持ちからなのだろう。
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