時枝君の恋愛指南

男性側からすれば、それ自体は褒められて然るべきなのだろうが、それと同時に、同僚でもあり彼女の親友でもある美園さんが心配するのも、無理のない話なのかもしれない。

…話しながらも、自身のうざったく長い前髪の隙間から、分厚い伊達眼鏡を通して彼女を覗き見る。

肩までの緩くウエーブがかった髪は少し明るめなダークブラウンで、透き通るような素肌は、取り立てて厚く化粧をしているわけでもないのに、きめ細やか。

今までじっくり見たことは無かったが、女性らしい柔らかなフォルムで、スタイルだってそう悪くない。

『か、可愛いって…私が!?』

実際。男性社員の間での彼女の評価も上々で、それを正直に口に出すも、急に真っ赤になりながらうろたえ出す。

目の前でコロコロと変わる豊かな表情が、課内一の美人だと評判の美園嬢とは違った意味で、普通に可愛いと思う。

確かにこのままでは、現実の恋愛はおろか、下手したら彼女のこの純真さをうまく利用した男に、容易に騙される可能性だって、大いにありうるだろう。

”乗り掛かった舟か…”

訳も分からずオロオロしている森野さんを前に、心の中で呟く。

この数日間で、非現実的な恋愛にのめり込む彼女に、3次元(リアル)の恋愛も悪くないと、わからせてやろう。

何より、”リアル男子”としては、”バーチャル男子”にやや負けた感あるのも、どうにも納得がいかない。

これは、専務からのミッションとは一味も二味も違った、久々に高レベルなミッションになりそうだ。

先ずは、どうやら現実の男性に、大いに抵抗のありそうな彼女に、自分が安全圏であることを刷り込ませる必要がある。

俺は彼女に、最大限の柔らかな笑みを向け、宣戦布告の代わりにはっきりと断言する。

『僕は、女性には全く興味ありませんから』

さて…ミッションのスタートです。

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