時枝君の恋愛指南
② 時枝side 1年前
・・・1年前 9月上旬
その日、久しぶりに専務に呼び出された場所は、新横浜駅にほど近いホテルのラウンジ。
ちょうど日本に戻ってから、1ヶ月が経とうとしていた時期でもあり、俺は勝手に次のプロジェクトの始動についての話だとばかり、思い込んでいた。
『…専務、何ですか?これは』
会って早々に渡された紙袋の中身を確認し、浮かんだ疑問を投げかけてみる。
『如月、今日はプライベートだ、堅苦しい肩書なんかで呼んでくれるな』
やけに機嫌が良い様子の杉崎専務は、何故かこちらが投げかけた質問には答えず、コーヒーを飲み干しながら、満面の笑みを返す。
若干薄ら寒いものを感じつつも、とにかくこの不可解な疑問は、早急に解消しなければならない。
改めて、袋から”その一部”を取り出すと、軽く咳払いをして、もう一度率直な疑問を口にする。
『では…杉崎さん、改めて伺いますが、この”カツラ”らしきものと”眼鏡”は、何なのでしょう?』
『どうだ、よく出来てるだろ?言っておくが、そのウィッグは、お前の為に特注で作らせたんだ。結構高かったんだから、大事に使ってくれよ』
『いや、そういうことではなく、これは、一体何に使うものかと』
『もちろん、仕事に決まってる』
事も無げにそう答えると、その流れで、近くの店員に、コーヒーのお代わりを注文する。