時枝君の恋愛指南
休日の為に、白のポロシャツにジーンズ姿という、ラフな私服姿の杉崎専務は、40も半ば過ぎだと言うのに活力がみなぎるように若々しく、見た目だけで言えば、自分の年齢と大して違わないようにもみえてしまう。

『仕事…』

怪訝な顔でもう一度紙袋の中身を確認するも、中には到底お洒落とはかけ離れた枠の太い黒縁の眼鏡と、男性のカツラにしてはやや長めな上に、少しウエーブがかった野暮ったいウイッグ。

その、まるで”変装セット”のような代物は、どうみても、仕事とは関係なさすぎる。

『”仕事”とは、新しいプロジェクトの話では…』
『あ~悪いが、今回はその話じゃない…実はな、急で悪いんだが、お前には来週早々にも職場に戻ってきてもらうことになったんだ』
『は?』
『なんだ、嬉しくないのか?』
『あ、いえ、そういうわけでは…』

いきなり想定外の復帰宣告に、面食らう。

そもそも、あらぬ濡れ衣を被せられ、やむを得ず職場を離れてからまだ半年程しか経っていないというのに、こんなに早く復帰できるなどと、思ってもみなかったことだ。

『如月には、戻って、榊君のサポートをしてもらいたい』
『…榊?』
『ああ、お前にまだ、名前を言ってなかったかな』

聞き覚えのない名前が専務の口から発せられ、聞けば自分の抜けた後に就いた新しい秘書の名らしい。
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