時枝君の恋愛指南
『今年の新人ですか?』
『いや、実は社内でも検討したんだが、なかなか良い人材がいなくてね、仕方なく外部から採用したんだ』
『中途なんて、よく社長が了承してくれましたね』
『フッ…俺の交渉力を甘く見るなよ』

自分がいなくなってから、当然専務には新しい秘書が付くだろうと思ってはいたが、てっきり秘書課の誰かしらに、白羽の矢が立ったのだとばかり思っていたので、驚いた。

しかも我が社は社長の方針で、新卒しか取らないのが定石のはずで、外部からの中途の採用と聞いて、二重に驚く。

専務は不敵な笑みを浮かべながら、新しく運ばれて来たコーヒーをブラックのまま、優雅に口へ運ぶ。

どちらにしても、渡された紙袋の中身とのつながりがわからず、このままでは埒が明かないと、敢えて居住まいを正し、単刀直入に聞くことにした。

『杉崎さん』
『なんだ』
『もう少し具体的なサポート内容を伺っておきたいのと、その業務と、この”紙袋の中身”は一体どういう関係が…』
『如月』
『はい?』
『俺にとっての”秘書”は、単なるスケジュール管理をするだけの人間じゃない…これは、お前自身がよくわかってるはずだ』
『もちろん、承知しています』

何故かこちらの質問には答えず、代わりに専務の方から逆質問が返され、思わずその答えに意識が持っていかれてしまう。

確かに、専務の秘書に就いてから、自分の中にあった”秘書”に対する概念は、完全に塗り替えられてしまった。
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