あくまで死んでます
【第1章】南天という男
状況を整理しようか。
目を覚ましたばかりで膨大な情報を摂取してしまったものだから、脳が悲鳴を上げている。
今"私"は、鬼と思われる「人ならざるもの」に襲われて逃げている。
逃げていると言っても闇雲に走っているだけで、ここがどこかわからない。
煌々とした灯りの場所へ逃げ込もうかと先ほど視界を投げたが、すぐに逸らした。
店先にたむろしているのもまた、人ならざるもの。
ああこれは悪い夢か。
いわゆる妖怪の類が、こんなにも。
鬼を見たとき、捕食されるとわかり恐怖こそしたが、その存在に驚きはしなかった。
そう、そうだ。思い出した。
"私"は、以前からよく人ならざるものーー妖怪が見えていた。
だが、こんな数の妖怪を見たことはないし、奴らが人間のように堂々と歩き回っているのにも違和感があった。
やつらは常に日陰でこそこそと生息していたんだ。
以前ならば妖怪達は、"私"を見ると恐ろしいものを見たとでも言わんばかりに逃げていった。
立場的に逃げたいのはこちらだったのだが、やつらが逃げるものだから、"私"もすっかりそれが当たり前になってしまっていたのだ。
「いたぞ!!追え!!」
「おい!人間の小娘だ!!捕まえろ!」
「人間だって?えらい新鮮じゃないか!」
「オレが捕まえて食ってやる!」
「っ……!いったいなんなのよ!」
なんでそんなに興奮しちゃってるわけ!?
前までこそこそ逃げてたくせに!ばか!
「あ……っ!」
足場の悪さに足がもつれ、勢いよく転がる。
だめだ。強く打った。足が動かない。
「さっきはよくも蹴りを入れてくれたなぁ」
「へへっ、早速足を怪我してやがる。
閻魔殿の罰が下ったんだ」
鬼達が恨めしそうに"私"を見下ろす。
その周りになんだなんだと妖怪達が集まり始める。
「こ、こないで!!」
「この期に及んでまだそんな生意気な口を聞くのか」
「気が強い小娘だなぁ。顔はいいから俺はやっぱり楽しみたいけどなぁ」
「冗談じゃない!ふざけるな!近寄らないで!」
情けないが、声を上げることしかできない。
そんな"私"を周りの妖怪達はニヤニヤと見つめる。
「鬼の旦那ァ、はやく食っちまいなよ」
「私にもわけておくれ。
若い人間の娘の血は寿命を伸ばすらしいさ」
「さ、観念しな」
鬼の手が伸びてきて、ざらついた手が"私"の首にかかる。
ああ、締め上げて殺される。
そう覚悟して、ぎゅっと目を瞑った。
そのとき。
「貴様ら、誰の許可を得てその娘に手を出した」