あくまで死んでます

南天という男に手を引かれて歩くと、不思議と息がしやすくなる。

心なしか清廉な冷気を帯びて、私を包むような気さえする。


「あの!」


彼の少し足早な歩にあわせて駆け足気味だったのを緩め、声をかける。


「どうした?」


チリン。

鈴の音が耳を叩いて、高い位置から見下ろされる。


「えーーっと……いつまで手繋いでるのかな……って」


自分で言っていて恥ずかしいが仕方ないのだ。

これはきっと手を繋いでいるのではなくて、連れて行かれているだけだ。

いわばリード代わりなのだろう。

だがしかし、あまりにじろじろ見られながら手を引かれて歩くのは"私"には十分すぎるくらい恥ずかしいことだった。

しかも、こんなに美しい人に。


少し考えるようにして、南天という男はじっと"私"の目を見つめた。



「あなたは、また先ほどのように鬼と戯れたいのか?」

「そ、そんなわけ!でもそうですよね。もしはぐれでもしたら危ないか……」

「ああ。またあなたに獄卒(ごくそつ)の者を使い物にならなくさせられると困る」

「へ?」



頭上にさぞかしはてなマークがたくさん浮かんでいることだろう。

そんな"私"の手をぐいっと引き、再び歩を進める。


「大通りを俺と歩けば、皆二度とあなたに手を出そうなどと思わなくなる。
不快だとしても、しばらく我慢してくれ」

「不快ではないです!」


食い気味に答えた"私"はさぞかし気持ち悪かっただろう。

そんな"私"を、南天という男は少し憐むような目で見た。

その目、やめてください……。



「まぁ、いい。着いた。
ここが今後あなたを保護する府君庁(ふくんちょう)だ」



淀んだ空気がスッと晴れ、目に飛び込んできたのは、石造りのあまりにも立派な建物。


仰々しいほどのその門は、見上げると首が痛くなるほどの高さを誇っていた。
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