あくまで死んでます
「大きい……」
ポツリと呟くと同時に、まるで主人を出迎えるようにして大きな金属音を立てながら門が開いた。
すると。
「南天さまーー!おかえりなさいませ!」
「ひゃっ!?」
門の中から飛び出してきたのは小さなたぬきだ。勢いよく南天の胸にダイブする。
「福。飛びつくな。客だ、茶の用意を頼む」
「客?どなたです?……って!ああ!」
"福"と呼ばれた小さいたぬきは、大きな目をさらに大きくさせてこちらを凝視した。
「お探しの娘御、見つかったんですね!よかったです!ひと安心です〜〜!」
「ああ。大通りで転がっていた」
「なんと!いつの間に死出の山を超えたので!?」
「わからん。規格外だ。考えるだけ無駄だ」
「南天さま……来る日も来る日も死出の山までお迎えに上がっていたというのに……おいたわしい……!」
「福。少し黙れ」
南天は、胸元で喋り続ける小さなたぬきを慈悲もなくポイッと投げ、"私"に中に入るよう促した。
死出の山だとか、保護するだとか、お探しの娘御だとか……気になる単語が聞こえてきた気がするけど、今は少し考えないようにする。
これから嫌というほど現実を突きつけられるのだろうから、少しくらい現実逃避したって許されるだろう。
大きな広間を抜け、こじんまりとした談話スペースのようなところに通される。
少しして、福と呼ばれた小たぬきが、ぺちぺちと足音を立てながらお茶を運んできた。
「娘御さま、どうぞお飲みください!
庁舎の裏の畑でとれた、緊張をほぐす生薬が含まれております。
長い旅路でしたでしょうから、ゆっくりおくつろぎくださいませ!」
目を覚ましたら見覚えのない場所にいたのだ。
長旅などした覚えはないが、いちいちそう伝えるのも野暮な気がしたので、差し出された湯飲みを手に取る。
「あ、ありがとう……。福、さん?」
どう呼んでいいかわからずおずおずとそう口にすると、小たぬきは少し照れたように笑う。
「お気軽に福とお呼びください!」
「そうしてくれ。福さんなんて鳥肌が立つ」
「南天さま〜〜!?」
「ふふ。では、福ちゃんと呼ばせてもらうね」
どうやら南天と福は気を許す仲なのらしい。
見覚えのない土地で突然鬼に襲われ、嫌というほど強張っていた体が、お茶と福ちゃんの癒し効果でじんわりとほぐれていくのを感じる。