あくまで死んでます
それは既にパンクしかけている頭を、ショートさせるには十分すぎる発言だった。
自分を?殺した相手が?ずっと目の前にいる?
"私"を、殺した相手が、目の前に?
「何も覚えていないなら、俺があなたのことを説明しよう。
名前は五十嵐ことよ。父母娘の三人暮らし。
数年前に同居していた祖父が亡くなっている。
確か好きなことは食べることで、帰路でいつも買い食いをして……」
「ちょ、ちょちょちょ!!え!?待って!?」
なんで!?なんで普通に話し続けてるの!?
殺した!?え、この男が!?私を!?
「ど、どういうこと?なんで……?」
「ん?腹が減っていたんじゃないか?」
「違う!!誰が今買い食いの話してんだ!!」
「ひ、ひえ〜〜娘御さま……ことよさま、落ち着いてくださいませ〜〜!
福もよく拾い食いをして南天さまに怒られていますゆえ!」
あわあわと私ーー"五十嵐ことよ"の足にすがりつく福ちゃんもまた、違う土俵で慌てている。
自分を殺した犯人に犯行を供述され、しかも悪びれていない様子に、ガンガン頭痛がしてくる……気がする。
実際は死んでいるのだから気のせいなのだろうけど。
「うう……」
落ち着け、落ち着け私。驚いた。十分驚いた。
でも、驚いたからって、きっと生き返れるわけじゃない。
この人を責めても、きっと生き返れない。
それに……。
「娘。あなたは殺されたことに関しては怒らないのか?」
なんの曇りもない透いた瑠璃の目が、私を見つめる。
そんな目で見つめられると不思議とこの人はきっと何も間違ったことはしていないんだろう、なんて思ってしまう。
「怒りたい……んだろうけど。
殺されて怒るほどの記憶がないもの」
「……難儀なものだな」
南天は静かにお茶を啜る。
「俺もそれなりの覚悟を持って伝えたんだが、杞憂だったらしい。
あの鬼以上に蜂の巣にされても、文句は言えまいと思っていたんだけどな」
「あの鬼……」
南天が言っているのは、私を襲って手と腹が崩れ落ちていったあの鬼のことだろう。
「失礼だけど、あなたみたいなあんな物騒な技は使えないわ。あの鬼、助かるのかしら」
「鬼の心配か?あの傷を負わせたのはあなたなのに?」
「は?」
心からの「は?」だ。
この期に及んで冤罪までかけるつもりか。
「悪いけど、これ以上は怒るわよ」
「怒るも何も真実だ」
「そんなわけ……!」
と、声を荒げそうになったところで気付く。
先ほどまで足下にいた福ちゃんが、飛ぶようにして私から距離を取った。
そしてガタガタと震えながら身を縮こませている。
「ふ、福ちゃん……?」
「福。大丈夫だ。娘は"そんな気"はない」