あくまで死んでます
福ちゃんは震えた体で南天の膝に飛び移り、恐る恐る私の顔を伺う。
なんだかショックだ。
すごく怯えさせてしまっている。
「も、申し訳ありませんことよさま……!
私も妖怪の端くれでありますので、その、本能には逆らえないといいますか……」
「福、それじゃ伝わらない」
南天は、膝でおずおずとこちらの様子を伺う福ちゃんをペイッと引き剥がし、空いた椅子へと座らせる。
「娘、あなたには妖怪なぞ簡単に消してしまう力がある。
今まで気付いていなかったようだけどな」
「そんな……嘘よ。あの鬼をあんな風にしたのが、私?そんなこと、今まで……」
言いかけて、ハッとする。
そうだ。私には以前から妖怪が見えていたのだ。
そしてその妖怪達はいつも私を見ると隠れるようにして逃げていった。
まるで……今の福ちゃんのように。
「っ……いたっ……」
ドクン、と頭の中が大きく波打ち痛みが走る。
目の前が真っ暗になり、体中から熱が引いていくのを感じる。
まるで思い出すのを拒否するかのように、思考回路が徐々に遮断されていく。
「おい、娘。どうした。……おい!」
よく通るはずの南天の声が遥か遠くから聞こえるようになり、そして私は……意識を失った。
***
「福。寝所の用意を」
「は、はい!南天さま!」
ぺちぺちと足音を立てて慌てて用意に向かう福を横目に、突然倒れた娘ーー"五十嵐ことよ"を抱え直す。
俺がこの娘を殺したのは、とある理由があったからだ。
そのことについても話そうとしていたのだが、少し無理をさせてしまったらしい。
否、何かの邪魔が入ったのかもしれない。
それか、一種の防衛反応。
「南天さま、奥の部屋でご用意が整いました」
「ああ、ありがとう」
「お手伝いしましょうか!化けますよ!」
「かまわん。娘一人くらい運べる」
福は化け狸だ。
素の姿こそ小妖怪の端くれのようなものだが、化ける才能に関しては買っている。
「南天さま!そーっとですよ!そーっと!」
「うるさい。わかっている」
小言がうるさい福をたしなめながら、用意された寝台に五十嵐ことよを寝かせた。
顔が白い。血の気が失せている。
「福。よく聞け。俺がこの娘を殺す前に感じた気は、今より何倍も強いものだった。
これは推測だが、今は何かで力を抑え込んでいるか、力そのものが強さを失っている」
「……やはり、憑き物で?」
「ああ。間違いない。
この娘本体からは、今は悪い気を感じない」
むしろこの娘は自身に憑いた何者かから、必死に抗っている。
生前のあの力が抑え込まれず今も健在であれば、あの鬼は娘に触れた瞬間跡形もなく消し飛んでいただろう。
そっと頬に触れる。
冷たい、陶器のような肌だ。
まちがいなく、死んでいる。そのはずだ。
「娘。どうか恨まないで欲しい。
何も無作為に殺し回った結果などではない。
あなたに、用があるから殺した。
……これから、よろしく頼むぞ」
聞こえているはずもないが、一種の懺悔のように独りごちた。