七色
 見ず知らずの場所へ行く。たったそれだけの小さな冒険が、僕の心に光を灯す。初めての景色を撮り収めておこうとスマートフォンを出したところで、ちょうど会社の後輩からEメールが飛んできた。頭が一瞬で仕事モードに切り替わる。

 添付されたファイルと、メッセージに目を通す。先週リリースしたばかりの顧客管理システムに関するエラー報告だ。次の駅で下車して連絡をする旨を送信し、スマートフォンをポケットに戻した。

 休日に会社から連絡が入るのも、今ではすっかりお馴染みだ。入社したばかりの頃はエラーとバグの報告にいちいち肝を冷やしたものだが、失敗の数だけ経験は蓄積されていく。近頃では両肩に掛かる圧に対しての免疫もつき、仕事にやりがいを感じられるようになった。

 レポートとアルバイトに明け暮れた学生時代を思えば、今は自由もある。長い連休には何処にだって行けるし、そのためのお金もある。

 僕の人生はそう悪くないと思う。むしろ、良いほうなんだと思っている。だけど、何かが足りない。満たされない気持ちを埋める何かは、一体どこに行けば見つかるのだろう。
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