伝えたい。あなたに。〜番外編〜



「ゆうかちゃん、過呼吸の発作ですね。喘息が出なくてよかったです。」


山瀬先生の眉間のしわは、話を続けるほど深くなっていて、


「木村さんは、事実じゃないことを言ってたのね。」


一緒に聞いていた市川さんも”またあの子は”と言って頭を抱えた。


ゆうかちゃんを知っているスタッフは、昨日は外来に姿は見えなかったと口々に言った。


市川さんも、僕が案内した時には少しの間いたようだけれど、すぐにいなくなっていたからそれほど気に留めていなかったという。


「ナースたちの間で噂してるだけですが、木村さんはどうやら山瀬先生がお気に入りのようでね。

山瀬先生に、彼女さんがいることを知ったとき、
ひどく機嫌が悪そうだったから、それを目の敵にしているのではないかと。」


「なるほど。いくら目の敵とはいえ、患者であることは間違いないのに。」


山瀬先生がボソッとつぶやく。


「昨日、ゆうかちゃんずっと山瀬先生を待っていて、一過性の虚血性脳貧血で倒れたんです。
その時、居合わせたのが木村さんで、たぶんその時にも何か言っていたんだと思います。」


診断を下したのは、北見先生です、とさらに付け加えた。



< 78 / 107 >

この作品をシェア

pagetop