伝えたい。あなたに。〜番外編〜






"おまたせー"


お盆に載った、一人用の鍋からホカホカと湯気が上る。鼻をくすぐる上品な香りに、思わず大きく息を吸い込みたくなる。


『いい香り。トマトですか?』


『そう、ミネストローネ風にしてみたの。カリフラワーやインゲンも入れて、食物繊維を豊富に取れるようにね。辛いものとかは入ってないから。』


『ありがとうございます。』


『ゆうか、前より生き生きしてるよ。』


お母さんの後ろからひょっこり顔を出したみきが言う。


『本当?』


『うん。さらに魅力的な女になったというか。』


『それはどういう、、』


『いやあ、いいわね、若いって。』


みきのお母さんが昔を思い出すように、見上げている。


『じゃあ、お幸せに。』


というと、早く早くと急かすみきに引っ張られるように、厨房へ戻っていった。






"お幸せに"




その6文字が、すごく嬉しかった。
でも、同時に恥ずかしくなって、泰志の顔を真っ直ぐに見られない。


途端にドキドキする心臓をおさえながら、泰志と目を合わせようとする。


『おいしい、これ。一口食べる?』


『それ、辛いやつでしょ。』


『あ、そっか。』


(そんなことを思っていたのは、私だけか。心臓無駄遣いしちゃった。)


それでも、辛い辛いと、汗を流しながら熱々の鍋を頬張る泰志を見るだけで、十分幸せだった。
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