君との想い出が風に乗って消えても(長編)



 あのとき、僕と一緒にノートを運んでくれた花咲さんとは特に何かを話したわけではない。

 僕と一緒に静かにノートを運んでくれただけ。

 職員室に入り、花咲さんと一緒に先生の机の上にノートの束を置いた。

 それから職員室を出てからも特に何かを話したわけではない。

 ただ静かに、ただ静かに花咲さんと一緒に教室まで歩いた。


 花咲さんと一緒に教室まで歩いた時間、その時間は不思議なくらい特別な空間にいるかのようだった。

 校内の廊下を歩いているだけなのに、花咲さんと一緒に歩いていると普通の廊下がそうではない、なにか神聖なところを歩いているかのような感じになった。

 こんな感覚は生まれて初めてだった。





 僕が花咲さんのことを何も言わないことにもの足りなさを感じた男子たちが、さらに花咲さんのことを訊いてきそうな勢いになった。

 そのとき体育の先生が「みんな集まって」と声をかけた。

 先生が声をかけてくれたおかげで僕は男子たちの質問攻めから逃れることができた。



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