君との想い出が風に乗って消えても(長編)



「草野くん」


 花咲さんがドアをやさしく開けた。


「……花咲さん……」


 僕はこれ以上、言葉が出なかった。


「草野くん……今の……」


「……あ……あのね……教室に戻ろうとしたら、たまたま花咲さんの歌声が聞こえてきて……あっ、でも大丈夫。僕は、たった今ここに来たところで花咲さんの歌はほとんど聴いてないよ」


「…………」


 ……花咲さん……?


 どうしよう、花咲さんが無言になっている。


 僕は、どうしたらいいのかわからなくなってしまった。


 どうしたらいいのかわからなくなってしまっている僕のことをじっと見つめている花咲さん。


 僕は花咲さんに見つめられて、ますますどうしたらいいのかわからなくなってしまった。


 そのとき……。


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