君との想い出が風に乗って消えても(長編)



「……草野くん……」


 花咲さんがようやく口を開いてくれた。


「気にしないでね」


 え……?


「私が歌っているところを草野くんが聴いたこと」


 花咲さん……。


「ありがとう、花咲さん」


 花咲さんがそう言ってくれて僕は少しほっとした。


「……でも……」


 ……でも……?


「草野くんに私の歌声を聴かれたことは……少しだけ恥ずかしいかな……」


 花咲さんは、そう言うと頬をピンク色に染めて恥ずかしそうにして少しだけ下を向いた。


「恥ずかしがらなくていいよ。花咲さんの歌声ものすごくきれいだし上手に歌ってたよ」


「草野くん……」


 ……‼


 しまった‼ 花咲さんの歌をそんなに褒めたら、僕が花咲さんの歌をしっかり聴いていたことがバレてしまう……‼


「……あっ……あの……花咲さん……」


 僕は、どういうふうに言い訳をしようか思い浮かばなくて焦っていた。


「草野くん……」


「は……花咲さん……」


「ありがとう」


 花咲さんは、はにかみながら笑顔になった。


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