君との想い出が風に乗って消えても(長編)
僕は思った。
今、僕の横には加恋ちゃんがいる。
今だ。
今が加恋ちゃんのことを誘うチャンスだと。
僕は何度も加恋ちゃんに『あの場所に行こう』と言おうとした。
だけど、なかなかその一言が出せない。
サッと言えば済むはずなのに、僕は喉になにかが詰まったかのようにその一言が言えない。
明日は終業式。
夏休み中も部活で顔を合わせるし、加恋ちゃんのことを誘うのは明日以降にしようと諦めかけた。
「優くん」
僕が誘うことを諦めかけたとき、加恋ちゃんが声をかけた。
「うん?」
「優くん、夏休み中のどこか空いてる日ある?」
加恋ちゃん……。
僕は飛び上がりそうなくらい喜びそうな気持ちを必死に抑えた。
「あるよ」
僕は少しだけ笑みを浮かべて普通の言い方で答えた。
「優くん、私が転校してきた日のこと覚えてる?」
「うん、覚えてるよ」
あの日、加恋ちゃんが言ったあの言葉。