氷の美女と冷血王子
「どうでした?どこか具合が悪いんですか?」
トイレから出ると、髙田君が寄ってきた。

「ううん、大丈夫。元気よ。でも、今日は私が送っていくから髙田君は帰って」

「は?」
意味がわからないというように見つめられた。

「仕事で何かあったんでしょ?」
「ええ、まあ」

鈴木さんも詳しくは言わないけれど、きっとそうだろうと思った。

「彼女泣いちゃってるのよ。だから、今は1人にしてあげて」
私は、声を小さくして言った。

これで納得してくれると思ったのに、
「青井さん、鈴木を呼んできてください」
髙田君はひかなかった。

「でも、」
女の子としては泣き顔なんて見られたくないはず。

すると、
「鈴木ー。いるんだろう!出てこい!」
髙田君は、トイレの中に向かって叫び始めた。

「ちょっとやめなさいよ」
顔に似ず強引な行動に、慌てて止めに入ったけれど、

「鈴木、お前はこんな事で逃げるのか?」

周囲を行き交う人の視線など気にすることもなく大きな声で話しかける髙田君を、私も止めることすらできなかった。
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