氷の美女と冷血王子
各自が1敗目のジョッキを空けお腹も満たされた頃、髙田君が少し表情を変えた。

「鈴木、お前は何が悪かったのか分かっているのか?」
手を止め、真っ直ぐに鈴木さんの方を見ている。

「うん」
やっと笑顔に戻っていた鈴木さんが、また泣きそうな顔になった。

「本当だな?」
「うん」

「じゃあいい」と、髙田君は枝豆に手を伸ばした。

しばらくして、ポカンとしている私に鈴木さんが簡単ないきさつを話してくれた。


バディを組んで取引先を回っている2人は、昨日の夕方から契約直前の商談が入っていた。
それもかなりの大口契約で、先輩から引き継いだ会社としても念願の取引。
昨日の商談でOKが出れば、両社の取締役を交えて契約の運びとなるはずだった。
しかし、昨日はたまたま髙田君に別件のトラブルがあり、鈴木さん1人で行くしかなくなった。
それでも、何度も通った会社の気心の知れた担当者だからと鈴木さん1人に任されたという。
それが・・・

「私が一番悪いんです。昨日に限って体調を崩してしまって、それでもなんとか向かおうと思ったら電車の中で倒れて・・・本当にごめんなさい」
すっかりしょげてしまった鈴木さんは見ていてかわいそうなくらい。

「違うだろ。お前が反省すべき点は、体調が悪いのに無理をして仕事を続けようとしたことだろ」
「うん、まあ」
「無理せずに誰かにヘルプを頼めば良かったんだよ。そうすればこんな大騒ぎにはならなかった」
「ごめん」

どうやら、2人もいる担当者がどちらも現れず、商談に同席予定だった相手の上司が怒ってしまったらしい。
今日になりまだ本調子ではない鈴木さんを残し、髙田君と山川部長が謝りに行ったが許してはもらえず、結局契約は延期になってしまった。
もちろんその場でも散々嫌みを言われたらしく、帰ってきた部長に叱り飛ばされた鈴木さんがトイレに駆け込んで泣き出してしまったということらしい。
山川部長も厳しいからな、鈴木さんの気持ちもわからなくはない。

でも、うらやましいなあ、同期って。
お互い言いたいことを遠慮なく言えて、それでいていつも気にかけている。
共に成長する仲間。
私にもこんな人がいれば、人生変わっていたのかもしれない。
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