氷の美女と冷血王子
カランカラン。

「いらっしゃいませ。あら、専務さん」

「こんばんわ、ママ」

ここに来るのは2ヶ月ぶりだが、顔は覚えてもらっていたらしい。

「麗子がいつもお世話になっています」

カウンターの席を勧めながら、ママはニコニコしている。
どうやら彼女が会社を辞めたことは知らないようだ。

「彼女、来てますか?」

マンションに行ってみたが帰った様子はなかったし、ここにいるんじゃないかと思ったんだが。

「いいえ、最近は家にもここにも顔を出さないわ」
「そうですか」

ここにも来ていないと言うことは、一体どこに行ったんだ。

「ママ、彼女が行きそうな所に心当たりはないですか?」

こんな事を言えば、ママに心配をかけるだけなのは分かっている。
でも、今はそれ以外に手がない。

「麗子、どうかしたの?」

やっぱり、ママの顔色が変わった。

「たいしたことではないんです。ちょっと怒らせてしまったらしくて、電話に出てくれなくて・・・」

「あら、」
ママの顔がパッと明るくなる。

きっと恋人同士の痴話げんかとでも思ったんだろう。
実際それに近いものがある。

「ちょっと待ってね」
ママがその場で電話をしてくれたが、
「あら、出ないわね」
やはり麗子は電話に出ない。

困ったな。
でも、これだけ避けられるって事は、本当に会いたくないのかもしれない。
だったら、俺も追いかけるべきではないのかも。

連絡が取れない麗子のことで気を使ってくれたらしく、ママがやたらと酒を勧めてくれた。
俺も遠慮なく飲み続けた。
昨日から一睡もしていなかったことも、頭痛のせいで鎮痛剤を飲んでいることも忘れて、酒に逃げてしまった。

当然、いつも以上に酔いが回ってしまった俺。
普段なら歩けなくなるほど酔うことなんてないのに、今日はダメだ。

ガンガンと頭が割れるような痛みが襲い、俺はうずくまった。

「専務さん、大丈夫?」
心配そうなママの声が遠くで聞こえる。

しかし、それに答える気力は残っていなかった。

バタン。
自分の体が床に落ちていく感覚がわかる。
しかし、もうどうすることもできない。

そこで、俺の記憶が途絶えた。
< 144 / 218 >

この作品をシェア

pagetop