氷の美女と冷血王子
うぅーん。

ガンガンと頭が割れるような痛みと、少し動くだけで込み上げる吐き気。
これは、久しぶりに味わう感覚だ。

「鈴木さん」
遠くの方で、女性の声がする。

「うぅー」
気持ち悪い。

「大丈夫ですか?」

さっきより鮮明に聞こえてきた声に、俺はゆっくりと目を開けた。

「うわっ」
眩しい。

「気がつかれました?」
真上から俺を覗き込む女性。

「え、ええ。ここは?」

「病院です。鈴木さんは倒れて運ばれてきたんですよ」

俺は今、救急病院のベットに寝かされているらしい。

「どこか、痛む所はありませんか?」
「いえ、大丈夫です」

酔っ払って倒れて病院に運ばれるなんてとんだ醜態だ。できることなら今すぐここから消えたい。
しかし、ベッドに横になり点滴を繋がれた状態ではどうにも動きが取れない。

「あの、もう帰ってもいいでしょうか?」
「え、えっと」

困ったように俺を見る看護師さん。

確かに大丈夫とは言えない状態だが無理して動けないほど悪いわけではない。
これ以上の恥をかかないうちに逃げ出そう。

「もうすぐご友人が見えるそうですから、それまでは横になっていて下さい」

「えっ、友人って」

その時頭に浮かんだのは徹ではなかった。

生意気で、強情で、ちっとも言うことを聞かない手に余る女。
それでも、会いたい。
あいつの側にるだけで、俺は幸せなんだ。


「孝太郎」
呆れたような声で俺の名前を呼び、ゆっくりと近づいてくる男。

そうだよな。
こんな時、まず駆けつけてくれるのはいつもこいつだ。
当たり前なのに、

「なんて顔だよ。俺じゃ不満か?」
「いや、すまない」

暇でもないのに駆けつけてくれた友人に申し訳なくて、素直に謝った。
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