氷の美女と冷血王子
「すみません、お世話になりました」
救急外来の窓口で支払いをし、徹と共に病院を出る。

「徹、すまなかったな」

こんなとき、頼れるのはやっぱり徹だ。

「いいさ、久しぶりに素の孝太郎を見た気がする」
「バカ言うな。今日はたまたま体調が悪かっただけで、これが素の俺なんかじゃない」
「そうか?」

どんなに言いつくろったって、子供の頃から一緒に育った徹には俺の本性がばれている。
いくら強がっても俺は小心者だし、冷酷になろうとしてもいざというところで情にもろい。
俺は、そんな自分に何重にも仮面をかぶって、虚勢を張って生きてきたんだ。

「なあ孝太郎、そんなに無理をするな。お前は立派な鈴森の跡取りだし、誰が見たって優秀な後継者だ。だから、安心しろ」
「徹」

「さあ、行くぞ」
「ああ」


徹の後に続き病院の外に出た瞬間、ムッとする熱気にクラッとした。
先ほどまで降っていた雨が上がったせいか、湿度が高くて夜とは言え汗ばむような暑さだ。

「大丈夫か?」
一瞬額に手をやった俺に、徹が声をかけた。

「大丈夫だ」
立っていられないほどの立ちくらみではない。

「とにかく、今日は寝ろ。明日の夜まではスケジュールを入れてないはずだから、ゆっくりしたらいい」
「ああ」

「それじゃあ、俺は帰るから」
「はあ?」

てっきり車で送ってくれるものと思っていた徹が、1人歩き出した。

「おい待て、送ってくれるんじゃないのか?」
夜中に1人置き去りにされても困るんだが。

「安心しろ、もうすぐ迎えが来るから」
「迎えって、お前・・・」

その時、
キィー。
急ブレーキを踏んで、車が止った。

「ほら、来た」

え?
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