僕からの溺愛特等席
店の前に停めてあった車に乗り込む二人を見送って私と糸くんは中へ戻った。
「考えてみれば、強引でしたよね……すみません。正直、焦ってて野間さんの気持ちを無下にしてました。僕……ちょっと頭冷やしてきます」
ふらふらとおぼつかない足取りで厨房の奥へと消えていった。
私には彼に言うべきことがある。はっきりさせておきたいことが。
思い切って厨房に声をかけた。
「私たちって、どうなりたいんだろう!」
「……え?」
厨房の奥ではなく、冷蔵庫の陰にいた糸くんが顔を出す。
なんだか泣いているようだった。
「というか、私はどうすればいいの? 先輩と後輩の関係じゃなくなってきていることは、分かってる。
告白してくれてとても嬉しかったし糸くんとデートして、年甲斐もなくはしゃいだし、ドキドキすることも沢山あった。
でも、私はまだ告白の返事をしてないよね?」
「い、いま返事するんですか……」
糸くんはまたもや冷蔵庫の陰へと腰を下ろそうとする。
「いやいや、その返事はまた今度でいいです。野間さんにもよく考えて欲しいし……僕、断られる覚悟がまだ出来てないというか……」
こちらからはもう糸くんの姿は見えない。ネガティブな声だけが聞こえてきて、私は大きなため息をついた。