僕からの溺愛特等席
店を出る直前、旭さんに耳打ちされた内容を思い出す。
「すまないね、掻き乱してしまって。君のことは好きだけれど困らすつもりは無いよ、告白のことは忘れてくれて構わない。
君が好きなのは糸なんだろ?
糸のやつ今すっごく悲惨な顔をしているから慰めてやってよ」
体育座りをして陰鬱な雰囲気をまとっている糸くんはこのまま放っておけば、いずれ床に沈みこんでしまいそうだ。
確かにそれくらいの絶望感が伝わってきた。
いつだって、私は自分の意見を避けてきたように思う。
旭さんにだって気を遣わせてしまって、不甲斐ないばかりだ。
言いたいことが無いわけじゃないし、意思だってちゃんとあるつもりだ。
でも、周りの動きが、思いの速さが私を巻き込んで濁流へと押し流す。これは言い訳に過ぎない。
分かっているのだ、しっかり立っていれば流されもしないし、流される原因が私自身にあるということも。
曖昧な態度は相手にも誠実とは言い難い、いくら日本の美徳がそうであったとしても、はっきり伝えた方がいいこともある。
こういう考えのとき、大抵は行動に移さないで尻込みし後悔するのだ。